第12章

ほとんどすべてのものごとは忘れ去られていきます。あの大きな戦争のことも、取り返しのつかない人の生き死にのことも、すべては遠い過去の出来事になっていきます。日々の生活が私たちの心を支配し、多くの大事なことが、冷えた古い星のように意識の外に去っていきます。私たちには日常的に考えなくてはならないことが多すぎますし、新たに習得し覚えなくてはならないことが多すぎます。新しい様式、新しい知識、新しい技術、新しい言葉…。しかしそれと同時に、どれだけの時間を経ようと、途中で何が起ころうと、決して忘却することのかなわないものがあります。すり減らない記憶があります。かなめ石のように自分の中に残るものがあります。私にとっては、あの森の中で起こった事件がまさにそうなのです。