大学4年のときに社会学を選択した。
オリエンテーションのときに先生がわたしたち生徒に対して示したものすごく挑発的な態度が面白くって、この先生の下で学んでみたいと思ったのだ。
授業でメインに扱っていたのは従軍慰安婦問題、ミソジニーやフェミニズム、家父長制といったテーマだったけど、これは第三者に説明しやすい「テーマ」でしかなくて、根本としては壮大な政治システムの上に生きるということ、歴史を学ぶということ、世の中に関心を持つこと、常識を疑うことを全身全霊で教えてくれた。いつも戦闘態勢で授業に臨む勇ましい先生で、いつも教室の空気が張り詰めていた。
ある日、授業後に質問があって(シリア内戦のことだったと思う)先生に話しかけたら、どんな話の流れだったか忘れてしまったけれど、先生に「国連に勤めたら?」と言われて驚いたことがある。当時は新聞記者を目指していたのだけど、就職支援課の職員にもマスコミに強い教授にも「当校の学生に新聞記者は無理。なにしろ実績が一つもない」と断言されていた。そんななかでの、先生の国連発言。自分で自分の可能性を狭める必要はない。選択肢はいくらでもあるし、まだ走り出してもいないことを無理といって諦める必要はない。そんなことを言われて感動した。
卒業前、わたしは先生とメールアドレスを交換した。
前々職(業界新聞社)で東京本社に異動になったときにはランチに誘ってもらい、神保町の『揚子江菜館』で久しぶりに再会。「ちょっと~社会人になってずいぶん丸くなっちゃったんじゃないの?前はトゲトゲしてたのに!」って、学生の頃の勢いを失いかけているわたしを笑い飛ばしてくれた先生。かつて先生の言葉にいかに励まされたかお礼を伝えたら「田澤さん(旧姓)は可能性のかたまりだったから」と言われて、涙が出そうになった。
本来、可能性は誰にだってあるもの。
それを無意識のうちに無理だと思っていた自分、もしくは無理だと言われていた自分の先入観を取っ払ってくれたのが先生だった。
こんなことを思い出すのは、たった今、大学4年生の就活ぶりに人生について考えているからなんだけど。
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数日前、就活について自暴自棄になっていた時のことを思い出し、インスタグラムにこんな投稿をした。
大学4年の初夏、志望していた全ての新聞社の就職試験に落ちて、本当に人生がどうでもよくなってしまったことがある。 「代官山あたりで働けたら楽しそうだな」くらいの気持ちでたまたま見つけたパワーショベル(デジタルハリネズミの会社)のバイト求人に申し込み、ある日、学校をサボって面接を受けに行った。面接官は社長だった。
一通り質疑応答を終えたあと、社長がわたしの目を見つめて「就職のタイミングはいつでもいいんだから、焦らずに、自分が本当にやりたいことをやりなさい」と言った。
わたしの悩みや不安が全て見透かされていた恥ずかしさと、そのときわたしが一番誰かに言ってほしかった言葉だった喜びとが入り混じって驚いたけど、帰り道は憑き物が落ちたように、すごく清々しい気持ちだった。わたしの人生を方向付けてくれた出会いだった。
新卒の就職活動なんてものは企業都合の採用方式でしかない。
誰かが決めたルールに沿って無理に就職先を選ぶ必要はない。正社員である必要もなければ、卒業と同時に働き始める必要さえ本当はなかったのだ。
わたしは自分の生き方を「なんとなく」決めたくない。
周りから反対されても、せめて自分だけは納得した生き方・選択がしたい。本当にやりたいことを時間がかかっても良いから探し、時間がかかっても良いからたどりつきたい。
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もうひとり、何度も何度も思い返す、大学時代に就活の指針となる言葉をくれた人がいる。ニューヨーク一人旅で出会った、ある日系ホテルで副支配人として働いていた男性。
わたしがニューヨークを一人で旅したのは大学3年生になったばかりの春(2011年4月)のこと。就活を始める前、その年の夏に、ニューヨークで働くことになった経緯や仕事の選び方などアドバイスを求めてその人にメールを送ったら、数日後にとても丁寧な返信が届いた。
今、大学3年生なら、この一年は自分が一生やってみたい仕事は何かを考えてみるべきです。一流企業に就職してブランドコースもいいですが、それでは多分自分のしたいことは見つからないでしょう。人生一度きりです。失敗しても自分がしたい仕事をしてみるのはよいと思います。
自分に後悔が無いように、色々悩んで頑張ってください。成功の反対は、失敗ではありません。失敗は成功の始まりともいいます。どんなに凄い経営者でも100戦連勝ではなく、99戦負けていても最後の一勝すれば成功者になれます。よって成功の反対は、何もしないことです。何もしなければ、けして成功はありえません。失敗を恐れず就職活動を頑張ってください。
…自分自身の心を大切にすること。悩むことを惜しまないこと。妥協しないこと。
人生で迷うたびにこのメールを思い出し、自分を偽るような生き方をしたくないなと思う。
失業してから今後の仕事のことについて聞かれることが多いけれど、自分のこれからの生き方さえ決まっていないのに、仕事(就職先)なんて、わたしには到底選べそうにない。やりたいこと、やりたくないことならはっきりしているけれど、正社員だから良い、とは思えない。自分の選択に納得しながら生きていきたいから、もう少し、仕事について考えるのは時間がかかる気がする。
最後に、最近観て感銘を受けたsigur rosのMVを貼っておきます。
無職24日目。