カラスは考える

よくも悪くも影響されやすい人間なので、「真のモノの価値」を追求する人に出会ってはその人の店でバカ高いルームフレグランスや洋服を買ってみたり、断捨離によって思考を整理する人のブログを読んでみては狂ったように物を手放してみたり。まあ人間らしいと言えばそれに尽きるのかも知れないけれど、常に自分の価値観というものに自信がなく迷いのない判断もなかなかできない。だから自分の行動や意見を肯定してくれるものを見つけるために本を読んでいるみたいなところがある。いろんな人に話を聞いてみては影響されてあっちにいってみたりこっちに行ってみたり。30歳にもなって自分がよくわからない。そもそも、自分というものを意識しすぎなのかも知れない。

 

いま赤ちゃんは生後9ヶ月で、1歳から保育園に預けるか迷っている。保育料は所得によって異なるのだけど、1歳児の場合、私が暮らしている町では月々に最大45000円くらいの費用がかかる。なんとか子を預けなくても仕事はできている。都合がつかずにオンラインで対応させてもらうこともあれば、死にそうな表情でパソコンに向き合いながらキーボードを叩き続ける夜もある。迷っている理由として、仮に赤ちゃんを預けたとして、保育料を賄うだけの仕事がコンスタントに入るのか分からないのも不安材料の一つだし、仕事が生きがいかと問われたらそれも自信がない。キャリアを継続(維持)することを目的としたり仕事が自分のアイデンティティだと考えていれば、保育料と稼ぎの収支がプラマイゼロどころかマイナスになったとしても保育園に預けることに意義はあるのだろうけど(フリーランスで物書きをしている人のインタビュー記事なんかを読んでいると、このような意見をよく見かける)私には自分にとって仕事がどれだけ大切なものか、プライオリティもよくわかっていない。会社員であれば、通常は一年間の産休・育休が終わると同時に子を保育園に預けて復職する。やむを得ない理由があるのと同じくらい、きっと世の中にはなんとなく子を保育園に預ける人もいれば、なんとなく預けない人もいるんだろう。なんとなく決められたら良いのに、私の悪い癖でどうしても「なんとなく」ができない。

 

もっと仕事したい。もっと稼いで自由にお金を使いたい。将来の選択肢を増やすためにお金を貯めたい。自由な時間を作って気持ちに余裕を作りたい。そういう気持ちがある一方で、これまでの、子どもを生む前の自分とはまるで違う今の状況、生き方を面白く感じているところもある。何においても赤ちゃん最優先で、赤ちゃんのペースで生活を送ることは苦しくもあるけれど、あくせく働いていたときの自分は本当に幸せだっただろうか、月曜から金曜まで休みなく働いて、土日も原稿を書いて過ごしていた日々は健やかだっただろうかと疑問が湧く。

 

昨日(というか今日というか)は3時まで仕事をしていて、夫に「いい加減起きたら?」と声をかけられて目を覚ましたら、11時だった。昨日買ったドーナツを食べて、夫と赤ちゃんと歩いてスーパーに買い物に出かけた。夫が青果コーナーに並んだ柿を見て「あげてみようよ」と言い、昼食後に与えてみたら喜んで食べてくれた。15時に赤ちゃんを担いで近所をゆっくり散歩した。人を警戒しないカラスを赤ちゃんと眺めて、季節と共に景色が変わった川沿いを歩いて、日に照らされて輝くススキに心を動かされたりした。久しぶりに鴨も見た。良い一日だった。

 

これまでの自分の価値観を見直したりライフスタイルが変わったりするのは一時的に苦しい。「変えない」「変わらない」ということが、これほど楽だと知らなかった。だけど新聞社から雑誌社へ転職したとき、コロナ倒産で突然失業したとき、妊娠して働けなくなったとき、子どもが生まれて(自分にとっては)天変地異が起きたかのように人生が変わったときに、これまでの生活リズムと違ったり理想と現実のギャップに苦しんだりすることはあったものの、結果として流されるように生きてきた自分の価値観みたいなものを見直すきっかけになっていたと思うし、それによって自分がより生きやすい方へ進んでこられた気がしている。決まっていない状態とか分からないという状態が苦手でしょうがなかったのだけど、その自分の力ではどうにもならないことを受け入れられるようになったときに、少し生きるのが楽になったみたいなところもある。決まらないこともあれば先延ばしになることもあればずっと分からないままということもあるのだ。全てが自分の思うようになるとは限らないし、自分の意図するように人生が「作れる」と思うのならばそれはとんだ思い違いなんだろう。保育園をどうするか、仕事をどうするかというのはつまりどう生きたいかみたいな話でめちゃくちゃ難しいんだけど、この悩みまくってる状況、価値観を見直さざるを得ない状況も含めて、もう少しゆっくり考えていこうかな。まじでまとまりがなくなりました。

 

この、「考えるカラス」のテーマがめちゃくちゃ好きだしカラスはかしこい。

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