例えば、わくわくしている子どもの脳はよく発達する。

 

子どもは、誕生の瞬間から「間主観性」(注1)という、相手の意図や情動をとらえる能力を備え、主たる養育者をはじめとする周囲の人とやりとりし、優しく温かい声やうきうきするリズム、心地よい身体的刺激などの肯定的な交流を得て、脳や神経が成長し、こころとからだを発達させていく。子どもにとって、主たる養育者とこうした幸せなやりとりができることは、生存と発達の重要な要素である。とくに乳幼児の脳は「生気情動」(注2)の中でこそ発達する。例えば、わくわくしている子どもの脳はよく発達する。近年の脳科学の研究では、面前DVや虐待を受けた子どもの脳の海馬・扁桃体脳梁などの構造が歪むことが明らかにされている(Teicher et al., 2003)。またDV・虐待・マルトリートメント・父母葛藤等が、幼少期から日々繰り返されることによる累積トラウマは、発達性トラウマ障害などの社会適応の悪い障がいにつながる。これらは治療が困難であり、予防と早期介入が重要であると言われている。
子どもに良い養育とは、安定的な強い愛着のある関係ができた親から、きめ細やかなケアを安定して受けることである(Sameroff &Emde,1989など)。その関係性の中で、子どもは自分の持つ能力を育み発達を促してくれるような情緒応答性を持つ養育者との間で、情動調律を介したやりとりを繰り返すことで安定したアタッチメントを形成する。それゆえ、子どもの成長発達にとって最も重要なのは、安全・安心を与えてくれる養育者との安定した関係と環境が守られることである。このような関係と環境が担保された上で、子どもは養育者である同居親や信頼できる大人に、必要なときに、必要なだけ、別居親との体験や思い等も話せるようになっていくと考えられる。そのためには、安全・安心は子ども自身のみならず、子どもに安全基地を提供する同居親についても、確保されなければならない。

日本乳幼児精神保健学会