わたしにだってできるし、あなたにだってできる

先週日曜、五ノ井里奈さんの講演会に行ってきた。講演を終えて来場者お見送りをしてくれた五ノ井さん。目の前に立つ五ノ井さんは、私より背が低くて(勝手に170cmくらいを想像していた)、メディアを通じて受け取る凛として堂々とした印象とは少し違い、表情はやわらかく温かい雰囲気で、私の目を見て微笑んでくれた。簡単に挨拶をして握手をした。手も、やっぱり私より小さかった。

 

イベント中、五ノ井さんは「私は最初から強いわけではない、普通の人間なんです」とか、「心が弱かったんです」とか、「昔からずっと内気で、伝えたいこともちゃんと伝えられなかった」と繰り返していた。その意味をずっと考えていた。講演中、主催者であり金沢市議の喜成清恵さんが「五ノ井さん、いくつでしたっけ?こんなに若いのに、本当に立派じゃないですか。20代前半で、本来であれば、社会に希望を抱いている頃に...」と、彼女の行動を讃えるシーンがあった。もやもやした。若いからすごい、女性なのにすごいという言葉は、裏を返せば、若い人には難しい、女性はできないといったバイアスから生まれているのではないか。五ノ井さんの言葉の意味を改めて考える。

 

以前、私が勤めていた業界新聞社は女性記者の人数が極端に少なく、私は「女性記者第二号」で、「第一号」はたった3、4歳上の先輩だった。男性記者は60、70人いるのに、女性記者はたったの2人しかいなかった。私は二人しかいない女性記者のなかで、結婚しても仕事を辞めずに続ける同社初めての女性記者だった。単身赴任と同時に始まった結婚生活は会社の制度との闘いでもあった。一般的に、新聞記者は全国転勤が当たり前で、私が働いていた会社には「週末、配偶者(妻)に会いに行く際に交通費を助成する制度」などがあった(ちなみに社歌は「男なら〜」から始まるような社風だった)。これまで女性記者がいたこともなければ社外の男性と結婚した女性記者もいなかったその会社では、私が利用できる制度などなかった。私が入社3年目に入って、後輩の女性記者が入社してきたこともあり、私は彼女たちのために環境を整備したいと思って何度も役員や社長に変更すべき点を訴えた。大学を卒業したばかりのたった24、25歳だったけど、私にも会社の制度を変える熱意があったし、実際に変えるパワーもあった。私の後輩は地方の支局で当時の支局長からセクハラ被害に遭い、泣き寝入りせず、社長に直訴して必死に被害を認めてもらおうとしていた。彼女だって、23歳くらいだったはずだ。私は人に怒られるのも嫌われるのも怖い。別に、特別な勇気があったから社長に直談判したわけでもないし、強いから会社とやりあえたわけでもない。ただ、そのときにどうしても自分が変えなきゃいけないという使命感があって、悩むよりも先に行動できただけのことなのだ。

 

五ノ井さんは本当にすごいと思う。五ノ井さんが闘ったのは、私が勤めていた会社とは違ってもっと大きな組織だ。被害を隠蔽しようとする力も働いていただろう。世間からの様々な反応もあっただろう。だけど「意思を曲げたら、世間のみなさんに伝わらない」、「何パーセントでもいいから、自衛隊が変わると信じたかった」、「先輩にも、志をもって入隊してくる後輩にも同じ目に遭ってほしくなかった」という気持ちから、ひたむきに、少しずつ前に進んでいったのだ。加害者から直接謝罪を受ける前日は「会うのが怖くて眠れなかった」と話していた。「最初から強いわけではない、普通の人間」で、不安や恐怖があっても、それを乗り越えて行動することはできる。私は五ノ井さんから「最初から強いわけではない普通の私だってできたし、きっとあなたにだってできる」というメッセージを受け取ったように感じた。私たちは弱くない。若くても無力じゃない。女性だから弱いというわけでもない。私にだってできるし、あなたにだってきっとできる。

 

そんなことを考えながら思い出したのは、子どもが生まれたばかりの頃に読んだ、元女子サッカーアメリカ代表・アビーワンバックの『わたしはオオカミ 仲間と手をつなぎ、やりたいことをやり、なりたい自分になる』だ。今、友達に貸していて手元にないけれど、SNSに投稿した読書感想文が残っていたから引用しておく。「権力や成功や喜びは、ケーキとちがう。ひとりの女性が大きく切り取ったからといって、ほかの女性の分が少なくなるわけではない。愛も正義も成功も力も無限で、誰の手にも入る。信じていい。革命は、ともに行動することで成功する。だから、すべての女性のために行動を起こそう。互いに助け合おう。互いに駆けよろう。互いに指さそう。無限の喜びと成功と力を求めようーみんなで」。

 

「行動は告発だけではなくて、いろいろな方法があります。自衛隊を休職して家に引きこもっていたときに、最初は家から外に出て空気を吸うことから始めました。それも自分にとって行動の一つだったんです」、「告発が必要ない世の中になってほしい」と語っていた五ノ井さん。話しを聞いて前向きな気持ちになりました。石川県まで来てくれてありがとう。