「ミッヒイ」

このあいだみた夢が最悪だった。ライターを職業にしている人たち三人である取材へ行ったのだが、自分が記事担当だとは思っておらずろくにメモを取らず話も聞いていなかったら、あとになってから他の二人が多忙で原稿を書く余裕がないと言い出して、記憶の断片を集めて泣きながら原稿を仕上げようとする夢だった。あんな夢もう二度と見たくないし、こんな目には絶対に遭いたくない。娘が一歳か二歳になったときに誕生日祝いとして義理のお母さんからもらって以来、気に入って言葉通り片時も離れず(厳密には保育園に登園しているあいだは別々だったのだけど)、旅行へ行くにも寝るときもずっと一緒だったミッフィーのぬいぐるみがなくなった。夫と娘がショッピングセンターへ出かけたとき、どこかに置いたままその場を離れてしまい、戻ってきたら無くなっていたのだそうだ。インフォメーションセンターにたずねても落とし物は届いておらず、連絡が来ないまま丸一日が経った。娘はミッフィーのことを「ミッヒイ」と呼び、両手で抱えてお散歩したりお布団に寝かせてあげたり、ときにはお風呂に入れてあげたりととても大切にしていたから、さぞかしショックを受けているだろうと思っていたら、案外「なくなっちゃった」とあっけらかんとしている様子で、夫が代わりに変わってあげたロールパンナのぬいぐるみを早くも気に入って一所懸命お世話していた。思い入れがあって名残惜しく思うのは、意外と親の方なのかもしれない。娘は半袖を着たがらない。最近になってようやく外出のときにはしぶしぶ半袖を着るようになったが、家に帰ってくればすぐに長袖長ズボンに着替えたがるし、今でも長袖のまま出かけたいと意地を張ることがある。気温が高くなってからは熱中症になることを不安に思って「暑くて具合悪くなっちゃうよ」「短いお袖のほうが過ごしやすいよ」と説得していたが、娘はかたくなに「ながいおようふくがいい」と言って、「着替えないと出かけないよ」と怒り気味の私に「じゃあでかけなくていい」と反抗したりしていた。7月半ばまでずっと長袖長ズボンスタイルを貫き通した娘だったが、結局熱中症にはならず、暑さで体調を崩すこともなかった。振り返って考えてみると、娘に「半袖を着なさい」という私は、もちろん熱中症に対する不安もあったのだけど、頑なに長袖長ズボンにこだわる娘への「言うことを聞かせたい」思いが強かったような気がする。どうしてそこまで長袖にこだわるのだろう(と言っても園ではみんなと同じ、半袖半ズボンの体操服を着ているのだ)、感覚過敏なのかもしれない、私に似たこだわりの強さがあるのかもしれないとか散々思い悩んでいたのに、あるとき娘は突然「ママ、これまでいうこときかなくてごめんね。かってくれたはんそでのおようふくきるね」と言って半袖を着るようになった。好きに理由がないように(ある場合もある)、こだわりにも理由がない場合がある。ここ数日も娘のある癖が気になって少し心配していたら、夫から「人は『この状態がずっと続くんじゃないか』と思って不安になるんだって。だけど、『この状態がずっと続くかもしれない』という不安は、実は根拠がない」と言われて納得した。いつかは半袖を着るようになるし、いつになっても半袖を着るようにならなかったと言って病気になって死ぬわけではない。健康で笑っているなら大丈夫。こだわりがあるなら気が済むまでさせてあげるだけの心の余裕を持ちたいが、思っているほど簡単でもない。

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