初めてのフッ素はケーキの味

毎晩、子どもが寝たあとは心身ともにヘトヘトになっている。ここ数日なんてことないブログを書きたいと思いながらなんとなく時間がなくて、寝かしつけが終わった直後は疲れているしお風呂に入ったらはやく寝たくなる。うーん、でも。と思ってお風呂にパソコンを持ち込みこのブログを書いている。特筆すべきことは何もないけれど書きたいことがあるっていうのはいいことだと思う。このあいだ取材先に向かうため車を走らせていたとき、人生で初めて運転するアメリカのハイウェイで、それこそ初めての右車線走行で追い抜きをしたときのことを思い出した。夫は連日の長距離ドライブに疲れて助手席で眠っていて、私は言葉通り手に汗を握りながら慣れない道路を走行していた。前の車の速度が遅い気がして意を決して追い抜きしたのだが、しばらくしてすぐにその車から追い越された。その車が私の車に近づいてきたとき、私の運転が気に食わず、すれ違いざまに銃で撃とうとしているのではと妄想したけどただの妄想だった。私(たち)は殺されず、無事にアメリカのロードトリップを終え、日本に戻っていつも通りの生活を再開した。

 

今日は午前中に子を連れて、小児専門の歯科医に行った。今のところ気になる口内トラブルはないのだけど、歯みがきが全然できていないことと、(あるとしたら)私の遺伝の影響はいつ頃になってわかるのかということを相談したかった。問診で歯磨きの頻度について「最低でも一日一回、寝る前にはするようにしています」と見栄を張ったのだけど、本当は子の抵抗を受けて、2、3日に1回くらいしか歯磨きが成功していない。検診のあと染色液で歯の汚れをチェックするときに、内心「今朝どころか昨晩も磨いていないんだけど、、」と不安になっていたのだが、桃味の染色液を塗装した子の歯はどれも白く綺麗で、先生から「綺麗に手入れできていますね」と褒められた。(歯磨き頑張らなくても大丈夫なんだ、、、とほっとした)。フッ素塗装は全部で5種類ほどのフレーバーから選ぶことができ、わたしは珍しさから「ケーキ味」をお願いした。娘はどの味を選んだとしても絶叫していただろうが、私はマスク越しに形容しがたい甘い香りを感じてちょっと面白くなった。診察を終えて病院を後にすると、夫から「よりによって一番ヘンテコな味を選んでいてびっくりした」と笑われた。院長先生を含めスタッフはどの人も親切で優しく、病院は内外ともに雰囲気が良くて、同じ子ども医療費500円だったらどの親も(子も)この病院を選びたいに違いないと思った。診察中、私の歯(というか顎)の遺伝について幼少期からずっと大学病院に通って治療を続けたことを先生に伝えると「これまで大変ご苦労されたのですね」とねぎらわれ、つい泣きそうになった。親の立場になって分かったことだが、おそらく治療を受ける私の百倍、親のほうが辛かったであろう。だけど私も結構しんどかったし、当時は私なりに精一杯頑張った。ということを感じさせてくれる温かい言葉だった。待合室では学校を休んで通院しているであろう子どもたちが豪快に足音を立てながら自由に遊んでいた。場所見知りする娘も、すぐに環境に慣れて約1時間の待ち時間を余裕で過ごしていた。受付そばのモニターから流れる病院からのメッセージを眺めていたら「歯列矯正はなによりもまずお子様の気持ちが大切です」と映し出された。何も歯列矯正に限ることではない。とても印象に残った。

 

夜、夫が体調不良のため仕事を切り上げて早く帰ってきた。子の夕食を終えお風呂にも入れて束の間の家族団欒をしていたとき、ふと「おかあさんといっしょ」を観たままつけっぱなしにしていたテレビに目が止まった。ハートネットTV「デクノボー魂〜全盲の中学教師 最後の授業」という番組だった。最後の6分間しか観られなかったけど、全盲の中学教師・新井淑則先生の言葉が心に残ったので文字を起こしておく。

 

37年間教えてきて、1番良かったことと悪かったことを話します。37年間教えてきて、1番成績悪いです、お前たちは。良い方の1番は、37年教えてきたなかで、1番お前たちは、温かい。優しい。心が。今から3年前ね、3月だ。春休み。いいか言っても?四方田航。四方田航がお母さんと一緒に皆野中学校に来たんだ、私に会いに。なぜだか分かる?手が不自由だから、いじめたり差別を受けるのが心配だって相談だよね。私は何て答えたと思う?航が障害ゆえに差別やいじめを受けたら、私のいる存在価値が全くないから、「私は教職をかけても航を守る」って、お母さんにも、航にも言いました。でも、その心配は無駄だったね。お前たちは差別どころではなくて、あんなに自然に受け入れちゃうお前たちって、すごいなと私は感心しました。なんてお前たちはハートのいいやつなんだろうと。お前たちと一緒に卒業したいなと思ったのは、一年のあのときからです。ちょうど時間になりました。最後お礼を言って、みなさんに感謝しつつ、私の最後の授業を終わりにしたいと思います。終わりにしましょう。

 

自分なりによくやったと思うし、よく助けられたと思うし、普通、教師と生徒って教える側と教えられる側で上下関係があるじゃないですか。でも、私の場合はそういう関係もありつつ、助けられる立場でもある。そういう、単に上下関係だけじゃなくて並列だったりして、そういう、お互いを思いやる、助け合うということができたんじゃないかなと思いますけど。