「要は作るか作らないかだよ」

あさからなんとなく調子が悪くて(精神的に)、そういう時期なのかしら、思い当たる理由もないのにとか思いながら、気分転換に仕事の打ち合わせのあと久しぶりにくわな湯に行ったら気分すっきり。風呂上がり、川沿いのベンチでゆっくりしていたら着物をきた観光客が「温泉があるんだね」、「お、すっげ〜!」とか言いながら通り過ぎていき、(銭湯だよ)とか(中もいいわよ)とか心のなかで話しかける。結婚式の前撮りとおぼしきタキシードとウエディングドレスに身を包んだカップルが楽しそうに歩いていた。外の空気は気持ちが良くて、なんだ朝起きてからずっと家で原稿書いてたから体調悪くなっただけなんじゃんって気づく。最近まじで自分に甘い。

 

ついにzineを作ることにした。少しずつだけど制作に向けて動き始めている。私のお知り合いならば「ついに」の意味が分かるかもしれない。かれこれ3年ほど前からずっと何かを作りたいと言い続けてきた。けど、いざ何か書こう、何か作ってみようと思っても何を作りたいのかがわからなかった。いまも何を書きたいのかわからない。私には尊敬する文章に携わっている女性が二人いて、そのどちらからも「何かテーマを決めて書いた方が良い」と言われてきた。結局テーマは決まらなかったけど、作ろうと思って動き始めたら、だんだん頭の中がすっきりしてきた。失敗するのが怖かっただけかも。バンドマンとして音楽活動をしてCDを作り、レコード会社に売り込んだりレコードショップへ売り込みに行ったりした経験のある夫は「作れば買ってくれる人はいるんだよ」と言っていた。「要は作るか作らないかだよ」。

 

道から逸れるのがこわかった。なのに、どんどん道から逸れていっている気がする。道がなんなのかもはっきりとわかっていないのに、道から逸れるのがこわい。道からどんどん逸れていっている気がし始めたのは会社員じゃなくなってから、厳密には勤め先が突然倒産してからだ。表向きは、私は自信があるような素振りをしているかも知れないけれど、会社員でない自分が、個人として何か仕事ができるのかもわからなくてこわい。妊娠、出産をしてからさらに不安は強くなった。興味がある仕事は夜とか土日も働けないといけないし(だからできない)、自分より仕事よりも子どもを優先しなきゃいけない気がした。漠然とした、何にもなれない感じ。どんどん自信がなくなってくる。

 

私なんて多様性だとかなんとか言いながらも意外と安定とかマジョリティ的な生活を求めていて、決まった時間に決まった場所に行かなきゃいけないとか、そういう予定とか仕事とか、そういうものがないと突然自分が宙ぶらりんになった感じがして不安になるしょうもないところがある。石川県にやってきてかれこれ6年くらいだけど、この先も石川県に住み続けるのかどうかわからない。かといって新潟に帰るのかもわからない。だからどこかに根ざしている人、同じ仕事をずっと続けている人、目標を持ってお金を貯めている人、人生の計画を立てて生きている人を見るとすごいなあと思うと同時になぜ自分にはそれができないんだろうと思う。

 

一方で、一つの土地に縛られずあっちに行ったりこっちにいったり、いまいる土地をさまざまな角度で、ときには批判的に見たり、一つの価値観にとらわれない人に出会うと、自分だけじゃないんだってほっとする。だから、そういう人の話を聞きたいと思った。休んだことがあるひと。いまいる場所から逃げたことがあるひと。思い通りにならない何かを抱えて、それでもがんばって生きているひと。現状に決して納得しているわけじゃないけど覚悟を決めて生きているひと。まわり道をしたことがあるひと。不安なひと、疎外感を感じているひと、そういう人が読んで、ちょっとでも自分だけじゃないんだとか、このままでいいんだとか、ちょっとでも心が軽くなるようなことが書けたらいいなあ。