景色、風景

以前勤めていた雑誌社に、あるときクレームの電話がかかってきた。私が担当した記事ではなかったのだけど、誌面で紹介している、ある飲食店のすぐ隣の家に住む人からの訴えで「隣の店の外観を撮影するときに、自分の家を写さないでほしい」とのことだった。隣接しているため、その店が雑誌に載るときには毎回、その人の家も写り込んでいた。これまで編集者もカメラマンも、そのことには全く気がついていなかった。まだ訪れたことはないけど気になっている新潟のカフェがあって、ずっとインスタグラムでチェックしているのだけど、このあいだ「大変心苦しいお願いですが、店の写真を撮る際はもう少し配慮をしていただきたい」といった内容を投稿していた。自分たちが大切にしている店が、いろんなところからカメラを向けて何度も写真を撮られたり単なる背景、おしゃれな風景として扱われたりすることがつらくなるときがあるのだと。街を歩いたり車窓から外を眺めたりしていて、素敵な街並みを見つけて写真におさめたいと思うことがある。その風景を撮ろうとカメラを向けて改めて見てみると、民家があり道ゆく人がいて、それぞれの暮らしや人生があることに気付き、個々の営みを無視して風景として捉えていることに気付いてハッとする。街並みを見て美しいと思うこともいいけれど、それを構成しているのは一つ一つの家で、店で、人だということを忘れないようにしたい。