日記

あちこち出かけるのが好きだし仕事も一所懸命がんばっていたから妊娠した当初は周囲の人から「仕事人間だし子育てしながら家でゆっくりするとか無理でしょ」なんて言われたりしていたのだが、酷い悪阻でほぼ寝たきりの生活を丸一、二ヶ月送っていたとき、テレビの前で死んだように横たわり言葉どおり朝から晩までNHK BSを観ていた日々って今思い返すとそこまで悪くないっていうかむしろすごく良い時間で、あの時間があったから私は「やまと尼寺精進日記」や「行くぞ!最果て!秘境×鉄道」、「アフリカ縦断114日の旅」などを観て知らない世界に触れることができたし、これまでになかった休むとか仕事をしないとかそういう価値観、時間の過ごし方を知ることができたと思っている。寝て過ごすのは(具合が悪くない限り)楽しくて、できれば仕事をしないで四六時中テレビを観るなり本を読むなり犬の腹を撫でるなり匂いを嗅ぐなりしていたい。だけどみんなが「無理でしょ」って言っていたように、私自身、仕事も何もしないで家でのんびり過ごすことが好きだなんて思わなかったので結局のところ何事も経験してみないとわからないものなのだ。11月11、12日の一人旅から帰ってきてもう一週間以上経つのだが、お土産にもらってきた風邪がしぶとくいまだに治らない。先週も近所のクリニックへ行ったものの、漢方薬を4日間飲んでも症状が改善しないどころか咳が止まらなくなってきたので別の病院を受診すると、あなた先月も来てるじゃない。と前置きした上で「あきらかに風邪。こういうときはちゃんと栄養をとってしっかり寝る。3、4日きちんと休めば治るから」と言われた。休みましょうってみんな簡単に言うけれど、原稿制作を休んだ分締め切りも先延ばしになるわけじゃないんだし、バイトだってあるし、子どもだっているし、大人はなかなか休めないよねと書きながら気づいたが私の就労時間はせいぜい日に4、5時間である。で、家に帰ってきて結局休まないで原稿書いてたらひと段落したタイミングで夫が「ほら、休憩してないじゃん!休憩。そういうところだよ」と言うのでパソコンを閉じてリビングに映り犬と共に録画していた「ETV特集 五味太郎はいかが?」を観た。五味太郎ってどんな人かよく知らなかったけど保護者向けの講演で印象に残った言葉があったので引用する。「今の学校っていうのはさ、勉強つまんないわけよ。二年生は三年生になるために頑張ってるわけ。で、小学生ってのは中学生になるために頑張るわけよ。で中学生っていうのは高校生になって、大学に行って、就職してってそれに向かって頑張るわけよ。今は将来のためにやがてくるってことをね犠牲だと。この理論ってね、なんなのかなーってね。で、みんなほとんどは何割かは頭が洗脳されてるよね。だから今日がんばってるんだよね。だから頑張れって言葉がこれほど飛び交うって国なんだろうね。未来のためだから、将来のためだからってことをずーっと続けていると、実は今がないんだよな。今は将来のための犠牲なんだよな。将来よくなるために今頑張ってるんだよ。でも今はどうすんのって。そうすると今、今を生きているっているビジョンが本当に少なくなってくる。でね、ぼくはそこのところをなんか耐えきれないっていうか面白くないんで、今の作業が面白いんだよねっていうのをずっと続けてきたんだなあって気が逆にする。ガキが五味太郎読んでて気持ちいいのは彼らが今生きてる子なんだよ。で、子どもっていうのは何かというと幼いうちは特に今を生きているんだよね。将来のために今幼いところ頑張ってるんじゃないんだよ。それは大人の理論付けなんだよ。彼らは今日の今、今、今の連続が、明日の今になって明後日の今になっていくんだよね。ちょっと理屈っぽいけど今の連続なんだよね。でなんか日本の人って割とそういう意味でいうと、真面目っていうのを目標にしちゃったじゃないみんな。真面目に生きるってことを目標にしろっていうことを、ちゃんとみんな落ちちゃったんだよね。真面目に生きてる。この国はほんとに詐欺だよ。これ よく暴動が起きないなっていうのは暴動を起こさないぐらいに真面目な人が育ったんだからこれ成功なのかもしんないね、この国は。でも、ちょっと違うんだよね」。ちょっと休むつもりが録画していたテレビを観て文字まで起こしている。そういうところだよと、我ながら思う。