レジに並ぶ女の子

昨日、仕事場に向かう途中で朝食を買うためコンビニに寄った。

 

途中、横断歩道がない交通量が多い道路で、左右を何度も確かめて急いで渡る、手を繋いだ小学生くらいの姉妹とおぼしき女の子二人が目に入った。二人も私のあとからコンビニに入店した。そういえば自分の子どもが生まれてから、他所の子どもが気になるようになった。無事に家に帰れるかなとか、怪我しないかなとか。

 

彼女たちはお小遣いをもらって買い物に来たようで、店内をぐるぐる回りながらパンの陳列棚やジュースの陳列棚を見て、楽しそうに商品を選んでいた。そんな様子を、私は微笑ましく見守っていた。最近のコンビニは、レジに並ぶ列を整理するために誘導用テープが貼られているところが多い。私はサンドイッチと牛乳を手にして列に並んだ。目の前には作業着姿の男性がペットボトル一本を持って並んでいた。レジでは高齢の男性が会計をしていて、その後ろには、整列する所定の場所があることを知らないあの女の子たちが買い物カゴを抱えて、会計の番を待っていた。

 

高齢の男性が会計を終えて、女の子たちが目の前のレジに進もうとすると、私の前に並んでいた男性が素早く彼女たちの前に割り入り、顎を使ってレジ待ちの列を指した。こうなることは何となく想像していた。

 

不憫に思って「お先にどうぞ」と声をかけてみたけれど、彼女たちは申し訳なさそうに「いいです」と小さくこたえて、3人ほど並んでいる列の最後についた。私が会計を終えてコンビニの外に出ると、先ほど会計を終えた男性がタバコを吸っていた。

 

 

 

ちょうどその日の朝、前日の夜に発生した小田急線での事件の犯人が「約6年前から幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった。誰でもよかった」と供述していることが分かった。

小田急線10人刺傷、36歳男を逮捕 殺人未遂容疑: 日本経済新聞

 

コンビニで見た光景は、例えばレジに間違って並んでいたのが立派なスーツに身を包んだ男性だったら、それともいわゆるヤンキーみたいな男性だったら、同じように威圧的な態度で無下に扱われていたのだろうか。

 

 

10年前、私は小田急線沿いのアパートに住み、小田急線沿いの飲食店でバイトをする女子大生だった。

 

普通に生活をしながら、コンビニで見た女の子たちのように、男性から嫌な思いをさせられたことは数えきれないほど多い。人が行き交う駅構内で、わざとぶつかってこられたこと。見知らぬ男性に舌打ちされたこと。こちらが客なのに、店員である男性から横柄な態度を取られたこと。仕事の関係で初めて会った高齢の男性から、馬鹿にされたこと。全部「大したことじゃないから」と我慢してきたけれど、今回の事件は、こうした毎日の我慢の延長線にあるように感じられて、とても人ごとに思えなかった。被害に遭ったのは、私だったかもしれない。違う。もう既に、女性だからという理由で多くの被害に遭っているのだ。「大したことじゃないから」と女性に我慢を押し付け、そのような言動をする男性を許し続けた先にこの事件がある。 

 

いつまで私たちは恐怖に晒されて、我慢を強いられなくてはならないんだろう。女性として、安心してこの国で暮らせるときは来るのだろうか。過去の「大したことじゃないから」といって蓋をした記憶が次々思い出されて、昨晩は長くてつらい夜だった。