続、新潟

連休のたびに新潟に帰って知らなかった新潟、見てみたかった新潟、忘れていた新潟を訪れている。これで何度目になるのか分からない、南魚沼・十日町エリアを訪れるたびに立ち寄っている越後妻有里山現代美術館キナーレ、今回は初めての子連れでの訪問だった。その日は暑い日で、中池で親子が水遊びしている姿を見て、自由に入っていいのだと気づく。そういえば以前訪れたときには船というかサップみたいなのが浮かんでいた。娘に「お水はいる?」と聞くと迷わず靴を脱いで水遊びすることに。大人だけだったら眺めるだけで終わっていたであろうレアンドロ・エルリッヒの空や建物を映す「空の池」。栗田宏一の「ソイル・ライブラリー/新潟」は地元の「土」が見たくて576ある土の一覧の中からひたすら「新潟市北区」を探したけど見つけられなかった。後になってパンフレットを読んだら「平成の大合併前の新潟県内市町村すべてを巡って集めた土」と書かれていた。新潟市がいまみたいに大きくなる前の地図に基づいて集められた土。緑もあれば赤茶色もあれば白も黄色もある日本の土。暗いところが苦手な娘なのにとりわけ気に入った作品は暗闇のなかを列車がゆっくりと光を放ちながら動き、壁にさまざまな影が映し出されるクワクボリョウタの「LOST#6」だった。本当に気に入って何度も観る。係の人からは「最低でも3回は観たんじゃないですか?」と声をかけてくれた。中谷ミチコの、一見すると絵のような彫刻作品「遠方の声」が素敵だった。無性に愛おしく感じて、作品があしらわれたハンカチを買ってきた。作品に合う額をみつけて飾りたい。ちなみに書棚にはデザイナー粟津潔から遺贈された書籍や新潟県や越後妻有地域の風土や歴史、文化に関する本などが収蔵されていて、これらを読むためだけに訪れたいくらい素晴らしいものだった。特に古い本はどれも興味深くて、私はやっぱり記録すること言葉を残すことに心が惹かれる。

 

何人かに勧められていた砂丘館、次回帰省するときにはぜったい行きたいと思っていたら、タイミングよく中井菜央さんの写真展「雪の刻(とき)」が開かれていることを知る。「滋賀に生まれ、まれにふる雪の降るさま、消えるさまに心を奪われた体験から雪の撮影を思い立った中井が、北海道、東北の雪などを尋ねあるいたのちに、新潟県の津南に撮影地を定めたのはその地の雪が「しめって」いることに引かれたからだったと語っている。「雪の刻」の英訳は“THE TIME RULED BY SNOW”(雪に律された時間)。津南では5月の連休にも谷には雪がまだ残っている。早い年には12月から積雪を見るこの地域ではほぼ半年が雪の季節となるが、その雪が溶けた水は、谷にあふれ、川にそそいでさまざまな生き物を養い、また地にしみ、それらを吸い上げた羊歯や草や木々の葉が夏には山ひだに噴きあがる。雪はそのように、雪の姿をまとわない時期にもこの土地をおおい、つらぬいている。律している」(大倉宏・砂丘館館長)。いまからちょうど90年前に建てられた旧日本銀行新潟支店長役宅はその建築自体も美しく、久しぶりに降った雨によって重たくなった雰囲気も相まって写真がすごく溶け込んでいるように見えた。砂丘館から駐車場へ戻る道すがら、これもまた気になっていた「異人池建築図書館喫茶店」に立ち寄る。ただでさえ異人池ヒルズの存在自体が大好きで高校生のころから西大畑町が好きなのに、そこに図書館兼喫茶店ができたのだ、最高すぎる。各本棚にはそれぞれオーナーがいて、動物の保護活動をしているひとによる犬や猫についての本を扱ったコーナーや、のんびりした本を集めた棚、イタリアの食や自然、アートにまつわる本が並ぶ棚などがあった。なかには「村上主義者の村上主義者のための村上主義者による本棚」なんてものもあって面白い。村上とはもちろん村上春樹のこと。ここでお母さんとお茶をしたあと、通り沿いにある1996年創業の洋菓子店「ヒロクランツ」に立ち寄った。厨房にはコック帽を被って作業に打ち込むシェフらしき人が立っている。こじんまりとした店内にはケーキのほか、タルトやパウンドケーキ、ヨーロッパ各国の国旗と共に様々な焼き菓子が並べられていた。お母さんが「懐かしい」と言っていて、まだまだ私が知らない新潟はあるし、お母さんの方が知っている新潟があるのだと気付いた。お土産に買ったレーズンクッキーがおいしかった。ランチはふるまちモールにあるクラゲがいる喫茶店・香里鐘(カリヨン)に行った。パン屋さん「冨士屋」が入るビルの2階にあり、子どもの頃、母に連れられて訪れた記憶がある。パン屋さんにオーダーメイドしたというパンと手作り感溢れるパスタともやしやグラノーラが入っているオリジナルドレッシングがかかった謎サラダと自家製ポタージュのランチは32歳になったいま食べてもおいしかった。わたしが新潟で文化的な(?)活動をしていたらここで打ち合わせとか文章書いたりとかしたい感じのすごく素敵な店。新潟市内はゴールデンウィークなのにいつもの週末よりも人出がなく、きっとみんな県外に遊びに行っているんだろうなと思いつつ、こんな静かな街なかがあっても過ごしやすくていいじゃないかと思ったんだけどそれは県外在住者の都合の良い感想なのかもしれない。

(インスタグラムに書いた内容をそのまま貼り付けました)