日記

大学一年生の頃、いっときSEE BY CHLOEにハマっていて、トートバッグやらロンTやら、ネットで割引率が高いものを見つけたりセカンドハンドショップで掘り出し物を探したりしては買い求めていた。暑くなり始めた頃だったと思う。その日は大学に一番近いアパートで一人暮らしをしている男の子の家にサークル(鹿児島県人会)のメンバーが集まって宅飲みをしたのだが、私はひと晩中、次の日の「午前中」に配達予定だったSEE BY CHLOEのトートバッグのことが気になっていて、飲みかけのアルコールが入った缶やらスナック菓子の袋やら、その他色々なゴミが散乱した汚いフローリングの上で適当に体を休めたあと、朝5時頃になると早々に「荷物が届くから家に帰る」とその場を離れたようとしたのだけど、そのときに誰かが「受け取れなくてももう一回送ってもらえばいいじゃん」と言ったのがとても印象に残っている。世の中にはそういう考え方の人もいるのだなあと感心すると同時に、今となっては再配達が当たり前になってしまったが、当時の私にとって約束したのにその場にいないことは考えられなくて、なんて適当なことをするのだとびっくりしたのだった。20歳の誕生日を迎えた日もそうだった。当日は当時付き合っていた彼氏と原宿渋谷あたりへ買い物に行って過ごしたのだけど、父から「夜に素敵なプレゼントが届くから楽しみにしていてね」と言われていて、買い物をしながらも夜までにアパートに帰れるかどうかということばかり気にしていた。その頃の私にとって父との約束は絶対で、本当は指定された時刻に荷物を受け取れなかったくらいで腹を立てる父ではないのだが、私は父の期待に応えられないと父を悲しませてしまうと思っていたから何がなんでも夜までに家に戻って誕生日プレゼントを受け取りたかった。おそらく日本郵便で、20時から21時のあいだに指定されていたとおぼろげながら記憶している。夜までにきちんと家に帰って荷物がやってくるのを待っていた私のもとに届いたのは、誕生石であるトパーズで作られたオーダーメイドのピアスと父からの一筆箋だった。その後金属アレルギーになって一切のピアスをつけられなくなったのだけど、機会があればアレルギー対応のピアスにリメイクしたいと考えている。子どもの頃に母が作ってくれたバターロールの味。一緒にクリスマスケーキ作りのイベントに参加したこと。ピザを作ったことバナナのパウンドケーキを作ったことベイクドチーズケーキを作ったことパンプキンタルトを作ったこと。週末に作ってくれた卵をのせただけのオムライス。毎年ゴールデンウィークにはやすらぎ堤で開催されているフリーマーケットに遊びに行ったこと。津川まで足を伸ばしてきつねの嫁入りに参加したこと。お母さんがそんなことまでと驚くくらい今でも覚えている出来事がたくさんあって、ささやかなそれらのことが、30年近く経ったいま娘との生活を通してふとしたときに思い出される。思い出して懐かしくなる。懐かしくなって温かい気持ちになる。愛とか友情とかそういうものがいまいちよくわからなくて、特に人からもらう愛、好意というものがピンとこないのだけど、誰かに愛されることによってではなく娘に対して愛情を抱くとき、これが愛情だと確かにわかるときに、私が子どもだったそのときにも、たしかに愛はあったのだと信じることができる。